風鈴の鳴るは人の訪れ


 ちりり〜ん♪
 ……この音も、もう聞き飽きた……なんてことを言ってしまうと誰も来なくなってしまうので、喉の手前でぐっとこらえて、
「いらっしゃいませ〜♪」
精一杯の笑顔で出迎える。
 「あ、こちらをどうぞ。ご自由にお使いください。後ろがスイッチになっております」
小型扇風機を手渡す。ただ置いておくのではなく、直接手渡すのがポイント。
「は、はあ」
……よし、手ごたえあり。

 来訪者は一戸建て建造物の中をまわり始める。時折立ち止まって見物し、扇風機のスイッチを入れる。
ちり〜ん♪
建物内に音色が充満し、やがて霧散していく。
 そして評すると、手にとり、または何もせず、来訪者は次へと向かう。
 ちーん。
 ぽ〜〜ん。
 かん。
変な音に聞こえるかもしれないけど、最初からそれを狙って作ったものなので、問題ない。

 ちりーん。
待つ。
 こーん。
ひたすら待つ。
 ちりーん♪
とにかく待つ。
 ちりんっちりんっちりんっ。
暇でも待つ。ここで声を掛けるのは風流に反するから。……あと、果報は寝て待てとも言う。

 ようやく物色が終わったのか、来訪者は真っ直ぐこちらに向かってくる。あー暇だった。
「あの、これ……お願いします」
「はいっ」


 ちりり〜ん♪
「ありがとうございましたー! またのご来店をお待ちしておりますっ」
 今日も青木風鈴店はそれなりの繁盛をしている。





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