世界と住人


彼は森の中にいた。
敗走し、逃げ込んだ森は、何処までも続いていて、出口も見えない。
追っ手は撒いたが、彼は完全に道を失っていた。
「どうすれば……仕方ない、えい!」
『HELP! HELP! 誰か!』
助けが来なければどうなる。きっと、そう遠くないうちにに死ぬ。負った痛手は自然治癒力に頼れるほど小さくない。

1時間が過ぎた。まだ助けは来ない。
『HELP! ME!』
「くそ……どうして来ない!」
彼の足の痺れが次第に酷くなっていく。

2時間。もうそろそろ彼も限界に近付いている。持ってあと20分……もう、彼は諦めかけていた。
だがしかしどうしてかそういうときに救世主は現れるものだ。そう、彼から少し離れたところに、人影が見える。
「おっ……き、来た!」
『HELP!』
するとその人影はこちらのほうに向かってくるではないか。助けてもらえれば、生き延びることができる。期待が身体を支配する。
人影――十代後半くらいの女性か。彼女は無言で彼のすぐそばに来ると、すぐに処置を行って彼を回復させた。
『ありがとうございます! お……お名前は?』
名を尋ねても答えず、そして初めから終わりまでついに一言も声を発することなく去っていった。

「いょっっっしゃあああぁぁぁああぁあ!!!」
彼は椅子から勢い良く立ち上がると、知らぬうちに渇いていた喉を潤すために、冷蔵庫へ向かった。座りっぱなしで痺れた足と闘いながら。
そして座席に戻ると、またモニターとにらめっこを始めた。
彼は今日も朝から晩までネトゲ三昧だ。


ちなみに、その女性の名は、ログを見れば書いてあった。なんとまあ細かいことに、治癒の履歴まで残っているのだから、プログラマーも律儀なものだ。





<あとがきに類する何か。>

[任意の挨拶を代入]。
され、5月のお題小説2つ目です。 今回は、 ・「物書きの集い」のお題「ポーカーフェイス」
・「小説書いてます」のお題「緑」
の2つです。
前回とは違って、こちらはすぐに完成。
さあ、今月はまだ1日ある……!

2011/05/30

5月のお題小説、1つ目はこちらに





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