×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


人参百本三十円


30円玉が転がる。
しばらく眺める。そしてつまむ。
「初めて見た、こんなの」
30円玉が蛍光灯の連続波を反射して輝く。
《平成きっと25年》
裏面にはそう書かれていた。
「使えるのかな?」
ふと、疑問が浮かぶ。
「……まあ、試してみよっかな」

「お客様、大変申し訳ありませんが、こちらは使用できません」
無理だった。
財布の中の10円玉3枚と取り換えて会計を済ませた。

お金というのは不思議なものだ。
何処の誰が何をしたかもわからない物体を、こうも平然と持ち歩けるのだから。
お札で鼻をかんだかもしれないのに。

回転テーブルに乗ってくるくると回りながらその身に受けた明るさを減衰させながらお返しだよ。
《平成きっと25年》
その文字が一際目立つ。だからひっくり返す。そうしたら目立たなくなる。
目立たなくなるとつまらないから、もう一回ひっくり返す。文字再来。
「結局これって何なんだろう?」
くるくるくるくる。垂直コインを爪ではじいて回転。倒れるまで放置。
倒れたとき、30の数字が少し光った気がした。
そして。
にゅーん。
オレンジ色の何かが。こう、にゅーんと、頭を出した。
それは三角錐形をしていて、そのままだんだん伸びる。
最後に緑色っぽい冠を底につけて、静止。
「……うん、人参だね」
ころん。バランスを失った人参は倒れた。
そこに間髪入れずにゅーん。また三角錐。

「……止まったかな?」
きれいな人参空間が完成していた。
だから今日の夕食は人参尽くしなのだろう。きっと。
浮遊する人参たちの全体集合、それと。

《平成きっと25年》はなんだか輝きを少し失っていた。
人参の対価、なのかもしれない。

日は西へ消えた。その残光が空間を人参色に染める。
時間の経過とともに、30円玉は輝きを失っていった。
そして残光が尽きたとき、その輝きも尽きた――。

夜は更ける。空には星々が輝かない。灰色の水蒸気が天空を囲う。
みつめる。ゆっくりみつめる。そこに光はない。


太陽が山の合間を縫って這い上がる。その放射線が瞼を通り、脳に目覚めの刺激を与える。
炊飯器が音を奏でる。意味は《ごはんがたけましたよ》。
「朝……かぁ……ねむっ」
伸びをふたつして、炊飯器の中身を頬張る。それはとっても人参色。

30円玉はそのままそこにあって、輝きを取り戻していた。
「ああ、なんだ、周りが暗かっただけか」
人参たちもそこらじゅうにいた。食べた分は減ったけど。
「改めて、こんにちは世界」
窓を開け放ち宣言する。ハローワールド!

「お客様、大変申し訳ありませんが、こちらは使用できません」
やっぱり無理だった。
50円玉一枚に割り込みを許す。


それからは、30円玉からにゅーんすることもなかった。
人参は10日で食べきった。
それでも、《平成きっと25年》はそこに光のある限り輝きを保っていた。
それに気付けたあたしは満足だ。





直線創作 index > works > novel > 人参百本三十円